島田雅彦への躓き

とはいいつつ、島田雅彦に関しては、村上春樹矢作俊彦ほど読んでいたわけではない。
3作品しか読んだ記憶がない。しかもアマゾンを覗いてみたら、私が読んだうちの2作品の評価が際立って悪い。
世間の評価そのまま信ずるなら、島田雅彦の作品のうち、つまらない作品ばかり読んでるわけで、それで、島田雅彦はもういいや、と思ってるのはマチガイかもしれない。


※ちなみに『僕は模造人間』『彼岸先生』『子供を救え!』の3作品です。


これら3作品とも最後まで読み通すのは、少し辛かったように覚えている。
『僕は模造人間』にはまだ勢いとか持続の気配があるけれど、『彼岸先生』は最初から最後までなんか低空非行気味だし、いちばん酷かったのは『子供を救え!』。
最初は郊外での殺人事件が描かれ、それに伴う謎とかに話がいく社会派的なモノかと思いきや、結局事件とは関係の薄い中年に差し掛かった男女の恋愛とか処世訓の話となって、非常に退屈にフェイドアウトしていく。
こんな尻すぼみな小説も珍しいぜ、と自分の読書量がないことを棚にあげつつ、買うの失敗したなあ感に溢れた。古本だったのだけど。
それ以来島田作品は、すばるに今書いてあるやつをサラっと読み飛ばした以外、読んでいない。


それでも、島田雅彦はなぜか嫌いになれない人ではある。
まず第一に、川崎の多摩川近辺という出自に馴染みがあり、自分の昔の記憶でわりと、ああ、と分かってしまう情景描写に出会えたりする。あのへんは、あまり文化人の名前は聞かない地域なのだ。
それに身軽である。エッセイや文芸時評などを目にする機会が多く、とくに、食に関するエッセイは薀蓄臭くなる一歩手前で面白く、また文学賞の選評では島田雅彦の選評がたいてい一番面白くて、それでいて本質的なところをついているようにも思えたりする。
小説家であることが忘れ去られてしまうと、恋愛小説に手を出したりするよりは、こういう分野に絞ってもいいかもしれないと思うのだがどうだろうか。


文芸時評といえば、一年以上も前になるだろうか、島田と中原昌也とでイザコザ的なものがあった。
中原の方が一方的に怒って事を大きくしたみたいな所はあるが、火に油を注いだのが阿部和重で、島田雅彦も自分が皮肉られて小説にまでされた事には流石に怒ったようである。
この3者の日頃の評価としては、阿部和重の小説が一番面白いとは思うが、結果として金井美恵子を外野で喜ばせかねない事態にまで阿部が発展させてしまったのは、少し残念に思った。
阿部和重青山真治中原昌也は盟友みたいな振る舞いをしていて、それ自体はそんなに悪いことでもないが、彼らを、蓮実重彦つながりで金井美恵子も味方しているような構図は、あまり見ていて気持ちの良いものではない。
もちろん、金井美恵子は誰かと相談して党派的にどうこうするような人には見えないし単独でいろいろ書いてるのだろうけれど、いくら島田雅彦の小説が面白くないとはいえ、やりすぎ感がある。


ところで、島田雅彦は自分が小説の題材にされた事にたいして、これからは後輩の事なんて気にかけず、松浦寿輝古井由吉みたいにやります、みたいな事を確か言ったのだが、松浦寿輝といえば金井美恵子との噂をネットで見た事があり、島田も金井美恵子に対して挑発しているのか、それとも純粋に松浦寿輝を認めているのか、どうなんだろうか。